【SINICラボ活動/前編】「未来を編む人」に内在するインサイト

「SINICラボ」活動による、対話を通して見えてきた7つの因子とSINIC理論とのつながり

企業における経営の羅針盤として1970年に生まれた未来予測理論「SINIC理論」。ここへきて「経営の羅針盤」としてのみならず、個人にとっての暮らし方や働き方など「生き方の羅針盤」として、新たな活用の可能性が見出されつつあります。

「SINICラボ」で立てた仮説

私たちが未来への共創の実験の場と位置付ける「SINICラボ」では、自身の興味・関心を出発点に、SINIC理論を通して自分と社会の未来に向けて考える人・行動する人を「未来を編む人」と呼ぶことにしました。
そして、実際に未来を編む人との対話を重ねていく中で、彼ら彼女らには、内在する共通項があるのではないだろうか、という仮説を立てたのです。

またこの背景には、未来を編む人に内在する共通項を解き明かしていくことで、人と人との出会いや、そうした人々が集う場づくりが可能となり、SINIC理論の活用の促進(=オープンソース化)につながるのではないか、とも考えたからです。

対話から抽出された7つの共通因子

私たちは、「未来を編む人」にあたる6名の方一人ひとりと1時間半の対話を実施し、内在する共通項の抽出を試みました。対話を通して明らかになった中身について、ここからは“未来を編む人の共通因子”として見ていくことにしましょう。

なお、それぞれの因子について、「概要」、対話で出てきた「キーワード」、「SINIC理論とのつながり」の3つの切り口でご紹介します。

本記事をお読みいただいている皆様には、自身に当てはめて、「取り入れられることはないか」「未来を考える際に役立てていけないか」「SINIC理論を活用していくきっかけにできないか」といった観点でご覧くださることをおすすめします。

概要私たち人間は、自己成長や経済発展などにみられるように、これまでは極力、過去を振り返らずに、止まることなく進化と拡張に挑み続けてきています。
しかし、これからは「自分の心と向き合う」「立ち止まる」という内省や静止の状態を積極的に取り入れ、そこから新たな気づきを得ることで、より前進していけるようになっていきます。

キーワード
 

喪失に目を向ける、痛みと向き合う、時代の変化点
 
SINIC理論とのつながりSINIC理論が2025年頃から始まると指し示す、次の社会フェーズである「自律社会」。
論語にいう「己の欲するところに従って規を超えず」の自律社会への移行では、物質文明が壁にぶつかり、人類が精神文明の方向に舵を切ることを意味します。
そこでは「人は何を動機付けや見返りとして生きていくのか?」、また「生きがいをどう感じていくのか?」といったことが問われてくるようになります。
因子1(拡大表示)
概要人間にとって、その内面に備わる自己の多面性を切り替える状況がより頻繁に訪れます。
人には生きていく中で培い、備えてきた性格・スキル・社会的役割などを含めて、それらすべてを包括する「自分」がいます。
そうした自身が、対人関係やコミュニティ活動での経験を通じて形成していく多様なパーソナリティを遺憾なく発揮し、バラエティに富む暮らし方や働き方が定着していきます。

キーワード
 

複数の居場所、求め(られ)る複数の役割、多面的な自分
 
SINIC理論とのつながり自律社会では、「人は自分のありたい生き方を持ち、自らの価値観に基づいて生活する」とされています。
そこでは多様な価値観を持つ人たちで構成される社会であっても、他者を尊重し、活かし補い合い、調和が維持されていきます。
複数の仕事や生活拠点を持つという、現在の変化・兆しにあるように、個々の生きがいや働きがいが満たされる、最適な社会(=自律社会)に向かっていきます。
因子2(拡大表示)
概要「違和感」とは、自分の外側と内側とに軋轢が起こり、しっくりしない感じのことです。
その違和感に向き合うことは、外側の動きに敏感になり、変化や疑問の先にある未来の兆しに触れる機会にもなります。
違和感をポジティブに捉えることが、自身の思い込みを変えて、次への新たな原動力につながります。

キーワード
 

違和感に忠実、視点をずらす、身軽に自分が進歩
 
SINIC理論とのつながりSINIC理論の今現在にあたる最適化社会では、最適な情報の選択的機能の拡大が可能となり、たとえば、個々の能力に応じて仕事への喜びを見出していけるなど、最適な社会に向かう過渡期に位置づけられます。
こうした最適経路を発見する機能が発達する恵まれた環境下では、人々が心身において弱体化してしまう恐れが出てきます。
SINIC理論ではそうした社会に生きる人々に対して、自らを律する真の変容を遂げる必要があるとの指摘をしています。
因子3(拡大表示)
概要「自分は今何を欲しているか」「自分が求めることは何か」といった、自分の内的動機・興味関心・葛藤渇望に正面から向き合う。
つまり、自分が世渡り上手になるために被っている仮面を取っ払い、「ありのまま」の自分で居続けるということに他なりません。
それによって、本来その人の持っている個性が取り戻されるとともに、社会も「ありのまま」の個人を受容するように変化していきます。

キーワード
 

自分が自分としていられる、精神的な純粋さ、ありのままの自分
 
SINIC理論とのつながり「心」と「集団」という2つの価値基準を重視する自律社会では、人はさまざまな活動を通じて、自分らしさの発揮や自分なりの歓びを追求し、生きがいを満たしていきます。
そこでは、人類は物質の世界から心の世界へ順次移行し、生きる歓びの探求をその目的とし、人間の英知と善意による平和と生命の尊厳の新世紀へと大きく変容していくとされています。
因子4(拡大表示)
概要人類が自然の一部であるという認識への回帰が進み、自然との調和・共生が望まれていきます。
そこでは、自然と人の生み出すテクノロジーが一体になっていくと同時に、自然のもつ力やポテンシャルを引き出す場面が増えていきます。
私たちは、自然にできることは自然に委ね、自然との調和・共生のためにテクノロジーをどう活用できるかを考えていくことになります。

キーワード
 

自然体、技術ありきではない、技術を目的のために利用する
 
SINIC理論とのつながり自律社会においては、「これまでの共同体における意識的な管理にもとづく社会から、ノーコントロールの『自然社会』へ移行するための社会の自律化が進む」としています。
科学・技術・社会の3つの要素から未来の進化を捉えていく上で、人がつくり出した文明が、自然との関係をどう再構築していくかが問われていくことになります。
因子5(拡大表示)
概要「こうありたい」と思い描く「個」の理想が、個人の向き合う相手や関わり合うコミュニティへの貢献におのずとつながっていきます。
言い換えると、個人のやりたいことが起点に、周囲の人、さらにその先の人へと良い影響を及ぼすようになり、“We”と表現される社会全体への関わりがより強まっていきます。

キーワード
 

Independenceを認めるコミュニティ、my purpose(存在意義)、自分事が社会化される
 
SINIC理論とのつながり現在の最適化社会では、次なる社会フェーズの自律社会に向けて“個”と“集団”という価値基準の間で葛藤が起きています。
18世紀後半の産業革命以降の工業社会では、「個」に価値を置いた活動が進む一方、そこで生み出されてきた経済格差や社会的孤立などが新たな社会問題として顕在化してきています。
こうした問題を乗り越えていくため、「集団」に価値をシフトさせる揺り戻しが、今まさに私たち、そして社会全体に生じてきています。
因子6(拡大表示)
概要私たち人類は、「もっとこうありたい、こうなりたい」という進歩欲を備えて生きています。
工業社会では、その進歩欲は主に物質的・経済的豊かさを社会や暮らしに生み出す原動力になってきたと言えます。一方、現在ではその弊害として、地球環境や経済格差などの問題が社会に影を落とすようになってきています。
そのため、私たちは進歩欲が向かう先を、経済成長一辺倒でなく、環境との共生、人類全体のウェルビーイングなどへと変えていくことが肝要になります。

キーワード
 

成功の定義が変わる、less is more(少ない方が豊かである)
 
SINIC理論とのつながり経済成長が重視されてきた社会を経て、最適化社会の現在、私たちは工業社会が生み出した負の遺産ともいえる課題解決に迫られています。
なかでも、気候変動に端を発する地球環境問題では、その対応の困難さがますます顕在化してきています。
自律社会への過渡期とされる今、SINIC理論の前提にある「豊かさを獲得した人間は、内発的な動機に基づいて真の変容を遂げていく」という、私たち自身の内なる進化が求められます。同時に、自律社会では、人類の進歩の原動力となってきた困難への抵抗力の希薄化が危惧されるとも指摘されています。
因子7(拡大表示)

ありたい未来の創造につながる共通因子

7つの共通因子は、自身の興味・関心を出発点に、自分と社会の未来に向け考え、行動する「未来を編む人」から抽出されたものです。
これらは、私たちがSINIC理論のちょうど「最適化社会」から「自律社会」への過渡期という、不確実な社会を生き抜くための欠かせない因子となるに違いありません。

一方で、2020年以降の新型コロナウィルスの世界的パンデミックを契機に、社会の変化は加速してきています。現在の最適化社会の渦中で抽出された今回の因子は、今後、自律社会、自然社会へとシフトしていく過程で、変容・進化していくことも自然な流れであるとみています。

ここで、一つ言えるのは、これらはSINIC理論に興味をもった人が無意識に持っている因子であるということです。7つの因子はSINIC理論との共通性や接続性を持ち、いわば、SINIC理論を知らない、あるいは、意識していない人にとって、SINIC理論を自分の行動や生活の羅針盤として取り入れる「インストールポイント」になりえるかもしれません。

今後、こうしたSINIC理論のインストールポイントをきっかけに、人と人とがつながり、コミュニケーションを重ね、未来を共に創っていける可能性は大いに広がるのではないでしょうか。また、そうしたことが、不確実性の高い社会と言われる今を生き抜く中で、ひとり一人が明るい未来に想いを馳せて思考し、行動していくことにつながっていくといえるでしょう。

後編へつづく

なお、「SINICラボ」の活動に少しでも関心があり、参画したいと思われた方は、次のコメントフォームから「SINICラボ」宛にメッセージをお送りください。一緒に未来を創っていきましょう。