オムロン太陽の場を通じた⾃律社会への共創取組【後編】

SINIC理論の実践の地『オムロン太陽』の現場を通して
自律社会の働き方、暮らし方、生き方、そして社会のあり方の解像度を高めていく

2023年8月28日(月)、オムロン太陽株式会社(大分県別府市)において、「自律社会の働き方、暮らし方、生き方、そして社会のあり方」を考えていく共創の場をもちました。

本記事では、今回の共創の場づくりに至った経緯(前編)に続いて、当日の様子(後編)をお届けします。

共生社会を体現する地”別府”

JR日豊本線の亀川駅のホームに降り立ち、オムロン太陽の社屋に向かう道中、車椅子で移動する多くの人を見かけます。

別府では、障がいを抱える人々が、働くことを含めて生活を営む中で積極的に行動範囲を広げてきています。その結果、現在のような暮らしやすい環境が形づくらてきているといいます。

今回、共創の場に集うメンバー(以下、共創メンバー)からも、「この街では車椅子に乗っていても、すれ違う人に振り返られることはない」という声が聞かれました。

このように地域の人々がお互いを特別視せず、共に暮らすという共生社会の姿が、別府においてはごく当たり前の光景となっているのです。

“人”中心の働き方、その先にあるイノベーション

そんな体感を得ながらオムロン太陽に到着した後、私たち共創メンバーは、代表取締役社長である辻さんより工場を案内していただきました。

実際に工場内を見て回ると、そこには、「お互いを認め合い、個々人が抱えるハンディキャップを日々の創意工夫で克服」というオムロン太陽の目指す姿が息づいています。

それは、抱える障がいなどの影響により働き手が苦手とする仕事だからといって、すぐ配置転換を行うのではなく、テクノロジーや道具などで工夫を講じて、”今の仕事のやり方そのものを変えて”できるようにする。そんな”人”中心の働き方の実践の数々を目の当たりにすることができるのです。

たとえば、箱を組み立てるという作業。両手が不自由なく使える状態であれば、その作業は言うまでもなくごく簡単にできます。しかしいざ片手で行うとなると、一気にその難易度がアップするのは想像に難くありません。

オムロン太陽ではそうした現場に、箱の組立を補助する台座の治具を採用しています。するとどうでしょう、その作業は片手であっても、驚くほどスムーズに行えるようになるのです。

そして、こうしたアイデアは、社内のメンバー同士が「どのような治具があると、できない作業ができるようになるか」を考え抜いた結果、現場に実装がなされているといいます。まさに、”人”中心のアプローチが、これまでは困難と思われていた作業を可能にするという、イノベーションに結びついているのです。

片手作業者のために箱の組立を補助する台座の治具
実際に箱の組立を体験してみる共創メンバー
その日の体調を一目で確認し合えるボード

ものづくり現場に続いては、働くメンバーがお互いのコンディションを共有し合える取り組みを見学させていただきました。

その仕組みは、至ってシンプルです。朝礼の際、一人ひとりが自分のその日の状態に合わせて、ニコニコマークを0~100%の間に貼り付けるというものです。

導入してからの変化について、社員の方からお話を伺うことができました。一人の方は、「最初は自分の状態をオープンにすることへの戸惑いがあった」と当時の率直な胸の内を聞かせてくださいました。

しかし、運用を続けていくと、カジュアルにお互いの体調を共有できるこのツールのおかげで、メンバー間でのちょっとした会話や相談が生まれ、徐々に全体に受け入れられていったといいます。

確かに、誰しも気分や体調は良い日もあれば悪い日もあるはずです。一方で、個人の性格によっては、体調が悪くてもそれがなかなか言い出せないケースも少なくありません。
そんなちょっとした人の心の機微を、この仕組みが上手く可視化することで、メンバー同士がお互いに寄り添い合える関係づくりへと結びついていることがわかります。

共感・共鳴から生み出される先駆けた姿

そもそもオムロン太陽という会社には、どのような成り立ちの背景があるのでしょうか。

「世に身心障がい者(児)はあっても仕事に障害はあり得ない」の信念のもと、社会福祉法人「太陽の家」を設立した中村裕医学博士。
そして、事業や経営を通じて社会に貢献していく姿勢(企業の公器性)を社憲にまとめた、オムロン株式会社の創業者である立石一真。

太陽の家とオムロンの合弁会社として、1972年に誕生したオムロン太陽。そこには中村裕先生とオムロン創業者の立石一真、その両者の理念の共感・共鳴が出発点としてあります。

今回、私たち共創メンバーは、自律社会へ先駆けた姿がオムロン太陽にあるに違いないという予見をもち訪問をしました。
実際に訪れたそのオムロン太陽では、「誰しも不得意なこと、できないことがあるというのをまず認める」文化が醸成されていました。

あらためて考えみると、障がいの有無に関わらず、私たちひとり一人には、出来ないこと、苦手なことがたくさんあります。
しかしながら、いつしか働く現場では、「出来ないとはけしからん」、「出来て当たり前」という風潮が定着してしまっています。個々人ではなく、働く現場を起点に考えるようになると、どうしてもそこに必要な要件をもつ人を当てはめようとする動きに陥ります。

そんな中、共創メンバーとの話し合いでみえてきたのは、自分の弱さをさらけ出すことができて、それを仲間と認め合う。すると、お互いに助け合いが生まれ、得意なことに集中ができる。さらに、自分の得意で、他の人を助けられる好循環が生まれてくるということです。

ここに働くということを通して、自律社会の姿「自分らしさの発揮と他者との協調が両立する社会」を垣間見ることのできる機会となったのです。

「未来予測理論」と「実践の場」から考える未来

オムロン太陽から道路を隔てて隣接する太陽ミュージアムの入り口には、「太陽」をイメージした竹工芸アートが展示されています。

使用されている約4,000本もの竹は、長さも色もバラバラの素材が織り込まれ、一つの作品となっています。まさに多様性の象徴ともいえます。

私たちが暮らす日常を見渡してみても、人のもつ個性や人間性はさまざまであるも、お互いの支え合いや助け合い、また協働・共創活動が社会を形づくっています。

SINIC理論に照らし合わせてみると、現在は「自律社会」への過渡期にあたる「最適化社会」に位置付けられます。
この先、人の心に価値の重きが置かれるようになると、人と人との関係性、組織や地域社会のあり方がどのようにシフトしていくのか。そうした未来への解像度を高めていくことのできるシーンが、オムロン太陽そして別府にはいくつもありました。

興味を持ってくださった方は、ぜひ一度オムロン太陽に足を運んでみてください。

オムロン太陽株式会社

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