2024.11.07 THU
大分県別府市は、留学生と日本人が半数ずつ在籍する「立命館アジア太平洋大学(以下、APU)」、障がいのある人とない人がともに働く「オムロン太陽株式会社」に代表されるように、“多様性と個性を活かし合う共生”が実践されている地域です。
ちょうど未来予測理論『SINIC理論』では、来年にあたる2025年より「自律社会」の到来を指し示します。その未来はというと、“社会全体の豊かさと、自分らしさの追求が両立する社会”と言い表すことができます。
今回、そんな自律社会をたぐり寄せつつあるこの別府にて、「ダイバーシティとインクルージョンの未来を語る會」という2日間の共創の場づくりを進めました。
Day1、Day2ともに大学・アカデミア、観光、経営、酒文化、金融、商工会議所、キャリアサポートなど、さまざまな分野で活躍されているキーマンと一緒に自律社会像とその実現へのアクションを深めていく機会となりました。
ここでは、その様子をお伝えしていくことにします。
「ダイバーシティとインクルージョンの未来を語る會」という名称に因み、冒頭、APU国際経営学部准教授・齊藤広晃先生による、違いが存在することが「ダイバーシティ」、違いを受け入れて活かすことが「インクルージョン」というそれぞれの言葉のもつ意味の確認から場がスタートしました。
“違い”というキーワードを受けて、その“違い”を混ぜた後に最高のパフォーマンスが発揮できる環境づくりが地域には欠かせない。そんな問題提起の下、APUという教育機関からみた、個人が自分自身を地域で活かすための“3つの力”の必要性が示されました。
【自分自身を地域で活かす3つの力】
①「言語・異文化の理解力」
②「“理想”と“現実”の理解・克服の力」
③「頼る力(頼れる環境を作る力)」
また、齊藤先生からは、APUの学生にとっての別府について、「厳しさと温かさの共存する地」、「第二の故郷」、「公私において混ざり合える場」といったフレーズが挙がり、大学と地域との協働をもっと増やしていくことへの意欲も言及されました。
そして、将来的には、ひとり一人が自分自身を活かす力の獲得と、そうした力の地域での発揮を通じて、別府が「ダイバーシティ」や「インクルージョン」という言葉を必要としない場となっていくことへの期待が語られました。
続いて、オムロン太陽代表取締役社長・辻潤一郎さんから、日本全国におよそ600社を数える特例子会社が存在する現状とともに、そこでは本業とはまったく異なる、障がい者向けの仕事を中心におこなっている会社も少なくないという現場が抱える課題感の共有がありました。
そうしたなか、オムロン太陽は、「マジョリティーもマイノリティーもつくらない」という方針で、ものづくり分野での数々の創意工夫した取り組みを積み重ね、1972年から約50年を経て現在に至ります。
現在、オムロン太陽には年間5,000名を超える数の見学者が訪れるといいます。その背景には、それぞれの企業において、本業になるべく近い仕事を障がいを抱える人であっても行えるような環境づくりができないだろうか。そんな課題意識をもつ方々が増えつつあり、オムロン太陽へと足を運んでいるに違いありません。
辻さんからは、「オムロン太陽がこれまでやってきたことを振り返ってみると、結果としてダイバーシティ&インクルージョンと呼べる」というコメントがあり、このようにオムロン太陽を訪問する人が着実に増えている様子からも、時代の風向きが確実にこれまでとは変わりつつあることが語られました。
こうしたインプットを参加メンバーとともに共有しつつ、Day1当日の最後には、「別府の豊かな資源と多様なバックグラウンドを活かして考える未来の地域発展モデルとは?」というお題について、3つのグループに分かれてワークを進めました。
あらためて、今回のインプットおよびワークを通して、SINIC理論という未来への羅針盤の共有、またそこに集う人々の知と知の組み合わせによる、多様性を活かし合うことへの大きな可能性が感じられる機会となりました。
加えて、齊藤先生から「頼る力」の必要性が示されたように、“自律”とは、極端に自己責任を強いるものではなく、自分の足で立ちつつ(=自立)、頼れる先(良い意味での依存先)とつながり(=連携)、その人らしく生きて(=創造)、歓びを感じること。
このように捉えることで、個々人が「自立・連携・創造」をより意識していけると、自律社会以降のより良い未来の可能性が格段に広がっていくのではないでしょうか。
場所を移して実施した「ダイバーシティとインクルージョンの未来を語る會」のDay2は、オムロン太陽代表取締役社長・辻さんより、オムロン太陽の歴史や会社概要の説明を受け、実際に工場見学をするところからスタートしました。
なかでも、オムロン太陽の最重点取り組みである「ユニバーサルものづくり(以下、ゆにもの)への進化」について、参加メンバー間での活発なやり取りが行われました。
辻さんからは、“ゆにもの”への進化として次の2つが示されました。
【ユニバーサルものづくりへの進化】
①障がいのある・なしに関わらず誰もが使いやすい
②多様な障がい(特に精神・知的障がい)に対応している」
また、ここには、「ハード(治具/設備)・ハート(相互理解)・ソフト(仕組み)」という3つの観点がポイントになっていることにも触れられました。
特に、「ハート」に該当する相互理解については、“苦手をカバーし、得意を活かす”という部分で大きな鍵を握っていることへの言及がありました。
このような進化の歩みを続けるオムロン太陽では、障がい者雇用を人的資源へと変えていく。その実現に向けて、次の2つを重要視しているといいます。
①障がい者雇用に関する“コスト”から“投資”という考え方へのシフト
②障がい者にとって“出来る仕事を探す”のではなく“今の仕事のやり方を変える”
辻さんは、ものづくり経営の視点で考えていくと、「誰もがつくれる」状態こそが「変化に強い」ということになると言い切ります。
実際に参加メンバーとともに工場を見学しながら、ダイバーシティ&インクルージョンをど真ん中に据えた組織運営が、新たな価値創造の実践につながっていることを丁寧にお話くださいました。
この先の自律社会を見据えるなかでは、辻さんは、オムロン太陽ではメンバーひとり一人の“想い”をどのように引き出していけるかを大切なポイントとして挙げます。
ここでの想いとは、個人がオムロン太陽で働けていることだけに満足するのではなく、本当にやりたいこととは何か?を考えることだといいます。
辻さんも「こればかりは言ってくださいといって、出てくるものではない」と言い、そのためには個々人に“寄り添う”ことが欠かせないと話してくださいました。また、マネジメントメンバーには、「焦らず、急がない雰囲気づくり」といったものを日頃から呼び掛けているそうです。
あらためてSINIC理論が次の社会とする「自律社会」を思い起こしてみると、そこでは“個人の自分らしさの追求”と“社会全体の豊かさ”という2つの両立がそのイメージとして提示されています。
今回、Day2のオムロン太陽の場では、個人と組織の双方がそれぞれありたい状態に向かうには?という、まさに自律社会に向けて考えるべきテーマを既に実践、実装されている様子そのものが体感できる機会でした。
また参加メンバーからは、「これからはひとり一人が“想い”をもって歩みを進めていく時代になる」といったコメントが聞かれるなど、各々がダイバーシティとインクルージョンの未来を語る中で、自律社会への解像度を高めていける場となったのではないでしょうか。